Researches (2)

数値流砂水理学 - 移動床現象への混相流・粒状体力学の導入 -

 

研究担当:後藤仁志,原田英治

 

河川・海岸の流れにおける水流と土砂の相互作用メカニズムを扱う研究領域は,「数値流砂水理学」と呼ばれ,その基幹ツールである数値シミュレータの呼称が「数値移動床」です.

 

数値流砂水理学

河川・海岸などの自然水域の流れは水底境界が土砂で構成されており,水流の作用で土砂が輸送されて水底境界の形状が時々刻々変化する特徴を有しています.このような水流による土砂輸送現象は,河川では流砂現象,海岸では漂砂現象と呼ばれます.混相流の流体力学および粒状体力学に基づき,河川流砂・海岸漂砂の流動を解析する学問領域が「数値流砂水理学」です.この分野の研究は,大学の計算機センターに設置された汎用機を使って統計的に有意な個数の砂粒子追跡を実施することが可能となった1990年頃から急速に進展しましたが,当研究室でもこの分野の黎明期から研究を継続して今日に至っています.この分野の学理は,下記の書籍に体系的にまとめられています.

後藤仁志著 数値流砂水理学 森北出版
ISBN4-627-49561-7[Link]

 

数値移動床(個別要素法(DEM)型モデル)

数値流砂水理学を実践するためのツールが「数値移動床」です.「数値移動床」では,砂粒の相互作用の記述(すなわち,粒状体モデル)が鍵となりますが,これには粒子間の接触点にバネーダッシュポット系を仮想的に配して相互作用力を計算する個別要素法(DEM; Distinct Element Method)(軟体球モデル)が最適です.当研究室では,MBS(Movable Bed Simulator) と称する数値移動床を個別要素法をベースに開発し,河川流砂・海岸漂砂の計算力学に関連する研究を行ってきました.

土石流扇状地の形成過程のシミュレーション

上図は,土石流扇状地の形成過程のシミュレーション結果の一例ですが,流路内を流下した土石流が平坦面入り口で急速に減速して堆積する様子が表現されています.なお,流路内の土石流の流速分布に関しては,既往の水理実験の結果と概ね対応することが確認されています.水理実験で同様の堆積過程を調べようとすると,特定の場所に固定したセンサーの出力(例えば,流速,圧力など)をモニターするしかなく,堆積の進行過程での土石流の流速の時空間分布を一挙にとらえることはできません.また,堆積が進行する過程で,堆積層内部でどのような力が作用しているのか,一旦堆積した土砂層が流路から供給される土石流によってどのように変形するのかといった力学的な過程の詳細を直接観察することも,水理実験では不可能です.個別要素法に基づく数値移動床では,個々の粒子間作用が時間発展的に追跡されるので,水理実験で直接把握できなかった物理量の時空間分布を追跡することが可能です.このような個別要素法型数値移動床の計算力学的な側面は,防災科学のツールとしての有用性を示唆するものです. 当研究室ではこれまでに,水理系の研究者は勿論,地質学・堆積学など理学系の研究者にも,個別要素法型数値移動床・MBSコードを提供して,共同研究を実施しています.さらに,近年は,護岸の前面に設置される波消ブロックなどの複雑形状要素の挙動を扱えるモデルへと拡張され,実務面での利用も開始されています.今後は,テーマ1で述べた数値波動水槽と組み合わせることにより,水面波・流れ・底質土砂の3者相互作用のDynamicsを取り扱う新しい研究領域「数値海岸地形学(Computational Coastal Morphology)」の基軸ツールへの発展が期待されます.

 

このテーマに関する主要文献

  • Yeganeh, A., Shabani, B., Gotoh, H. & Wang, S. S. Y.: A Three-Dimensional Distinct Element Model for Bed-Load Transport, Jour. Hydraulic Res., IAHR, Vol. 47, No. 2, pp. 203-212, 2009.[Link]
  • Harada, E. & Gotoh, H.: Computational Mechanics of Vertical Sorting of Sediment in Sheet Flow Regime by 3D Granular Material Model, Coastal Eng. Jour., Vol. 50, No. 1, pp.1-27, 2008.[Link]
  • Yeganeh, A., Gotoh, H. & Sakai, T.: Applicability of Euler-Lagrange coupling multiphase-flow model to bed-load transport under a high bottom shear, Jour. Hydraulic Res., IAHR, Vol. 38, No. 5, pp. 389-398, 2000.[Link]
  • Gotoh, H. & Sakai, T.: Numerical Simulation of Sheetflow as Granular Material, Jour. of Waterway, Port, Coastal, and Ocean Engrg., ASCE, Vol.123, No.6, pp. 329-336 1997.[Link]
  • 原田英治・後藤仁志:三次元数値移動床による混合粒径シートフロー漂砂の分級過程の解析,土木学会論文集B, Vol. 62, No.1, pp128-138, 2006.
  • 後藤仁志・原田英治・酒井哲郎:混合粒径シートフロー漂砂の鉛直分級過程,土木学会論文集,第691号/II-57,pp.133-142, 2001.
  • 後藤仁志・酒井哲郎:表層せん断を受ける砂層の動的挙動の数値解析,土木学会論文集,第521号/II-32,pp.101-112, 1995.

詳細は「Publications」のページを参照下さい.

 

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